2013年2月8日金曜日

  『国家とはなにか』 萱野稔人

私は昔から哲学書は苦手であった。この本も読み切るのに時間がかかった。
私の大学院の恩師、石川栄吉先生は哲学に対して疑義を唱える人だった。
私自身はそうとは思えず、研究室の先輩の哲学的レトリックには魅力を感じつつ、空虚感も感じた。
今回この書を読んでみて、哲学は現実の社会現象を抽象的な言葉でフィクション化回避しているように思えた。
しかし、文学がフィクションと名乗って、現実を暴くように、抽象化して現実を暴くのが哲学かなとも思った。
ただ、彼の最近の活動をネットで調べると、かなり現実の社会問題に取り組んでいることが分かる。
今後彼の主張や動向は、学術的な哲学を越えているようにも思っている。

私自身は、社会学が避けてきた軍事の問題をどう捉えるかずっと悩んでいた。
「暴力」という言葉は、生々しいリアリティーを回避するのに用いやすい言葉だとは思った。
国家の根幹に関わるものとしての「暴力」を通して、「想像」された国家の裏面を暴いた。
私はもう一つ「欲望」という言葉も用いたいが、これもまだ考えがまとまっていない。
とにかく、歴史や現代を考える上でも、割り切って考えるのに非常に参考となった。
平和主義を唱える日本人にとって、「暴力」を表出させられてしまうと不安になるのだが、リアリティーのない状態で右傾化する事の方が恐怖である。

私の最大の関心は、国家に組する以外の生活であり、適当に国家と付き合いながら、どう自分たちの生活と仲間を守っていくかである。
欲ボケして国家奴隷の如き生活を余儀なくされている我々の立ち位置から目を背けないことが、今一番重要だと思っている。
そういう意味でこの書は参考になるが、私自身完全に理解できているとは言い切れない。
おそらく、自分の都合の良いように解釈しても良いのかも知れない。

目次

国家とはなにか
初版第1刷発行
2005年6月15日
著 者 萱野稔人
発行者 勝股光政
発行所 以 文 社

イントロダクション  3


第一章 国家の概念規定 9

  1 「物理的暴力行使の独占」
        ― ウェーバーによる国家の定義 9
  2 暴力の正当性と合法性 16
  3 暴力の自己根拠化とヘゲモニー 26
  4 「暴力の歴史の哲学」  37

第二章 暴力の組織化 43

  1 秩序と支配の保証 43
  2 服従の生産―権力と暴力 48
  3 暴力と権力の規範的区別と機能的区別 56
  4 権力による暴力の組織化と加工 69
  5 手段をこえる暴力? 81

第三章 富の我有化と暴力 93

  1 富の我有化と暴力の社会的機能 93
  2 税の徴収の根拠 99
  3 設立による国家と獲得による国家 106
  4 所有・治安・安全 118
  5 国家形態の規定要因と「国家なき社会」 128

第四章 方法的考察 137

  1 国民国家批判の陥穿 137
  2 国家・イデオロギー・主体
     ―国家=フィクション論の誤謬(1) 144
  3 国家と言説
     ―国家=フィクション論の誤謬(2) 53

第五章 主権の成立 159
  1 暴力をめぐる歴史的問題としての主権 159
  2 近代以前の国家形態 161
  3 暴力の独占と政治的なものの自律化 168
  4 領土と国境 176
  5 「大地のノモス」と世界の地図化 182
  6 国境と頷土による国家の脱人格化 186

第六章 国民国家の形成とナショナリズム 191
  1 国民国家とナショナリズムの概念的区別 191
  2 国家の暴力の「民主化」 197
  3 神学的・経済的なものと国家のヘゲモニー 204
  4 権力関係の脱人格化 213
  5 主権的権力と生-権力の結びつき 224
  6 ナショナル・アイデンティティの構成 233

第七章 国家と資本主義 243
  1 捕獲装置と資本主義 243
  2 全体主義的縮減-国家の現在 256
  3 脱領土化する国家 265
  4 公理をめぐる闘争 270



あとがき 281



2013年1月24日木曜日

『病み情報社会』 金子義保

自分の健康問題を考えるに当たって、医療・健康に関する書籍にあたってみた。
自分が入院したり、退院後の治療にあたっているときは、治療方法そのものに関心があった。
病状が回復し、安定してくると病気そのものが生じる原因を考えようと思うようになった。
医療人類学や医療社会学の書籍にあたってみて、色々ためになったが、医学的な立場での書籍は、ある意味目から鱗であった。

著者は

一九四四年、埼玉県生まれ。一九七〇年、東京大学医学部卒、医学博士。アルバート・アインシュタイン医科大学研究員、東京大学医学部講師、東京大学医学部付属病院総合内科外来医長。内分泌代謝病、肝臓病、肝癌の遺伝子治療などを研究

という紹介がなされている。
 この本は当然専門的な医学の知識もふんだんにあるが、高校の「現代社会」の教科書にも通じるような部分が多い。
当然教科書よりもより高度で難解ではあるが、文系の思考が理系分野に立ち入れずに戸惑っている部分をうまく解説してくれている。

医学者が自ら誤った医療の情報をも暴露もしている。
そして、医療のみならず「病み情報」が氾濫する文明そのものの批判を、少々粗っぽいやり方に見えるが行っている。
ただ、社会システムで成功を収めた医学者は、社会システムの批判を行うと自己撞着を当然起こしてしまう。
かと言って、社会的弱者は情報を発信することはかなり難しい。
また、この本は2007年に出版されており、EUなどの国民国家を越えた共同体への期待が述べられている。
今はその破綻を目の当たりにしているので、どこに救いを求めて良いのかは、読者が考えねばならない。
とにかく、マスコミが宣伝したり、学校で常識のように習うことを根本から疑うこと。
そして、信頼が第一であるべき病院での治療をも、警戒しながら頼るしかないことを痛烈に教えてくれる。
特に、薬害に関してはしっかりと読んでおくべきだと思った。

医療人類学の書籍においても、近代医療に関しての批判がなされているが、現代医療のおぞましい部分は描けていなかった。
この書のように731部隊が戦後の医療にどれだけ関わったかということ一つをとっても衝撃となる。
ただ、そういうおぞましい虚塔の何倍もの地道は医療があったことも想像できるのだが、この書の目的とは違うのでこれは読者が別の機会で知るしかない。

目次

病み情報社会【やみじょうほうしやかい】

二〇〇七年十二月五日 初版第一刷発行

著者   金子義保
発行   株式会社 新書館

      詳細目次 4

       はじめに 10
第Ⅰ部 病の蔓延
 第一章 複雑系の情報と「病み情報」 16
        1病と医の歴史 17/2複雑系の情報 26/3病をもたらす遺伝情報 34
        4病をもたらす自然環境の情報 36/5病をもたらす社会情報 41
 第二章 病んだ社会情報がもたらす社原病 46
        1病み情報に基づく自己傷害と他者傷害 47/2貧しさ病と豊かさ病 49
        3有害物質による環境と心身の破壊.61/4職業と関連する疾患 81
        5狂気が生み出す究極の他者傷害 86
 第三章 ありふれた病・多因子病 107
      1心身の病を診る 108/2ゲノムと環境の相互作用がもたらす多因子病 110
      3多因子病と活性酸素 118

第Ⅱ部 文明病各論
 第四章 代謝系の病 124
      1代謝系の特徴 125/2代謝症候群 127/3肥満 132/4糖尿病 141/5高脂血症       153
 第五章 血管系の病 168
      1心血管系の病の特徴 169/2高血圧 170/3動脈硬化症 179/4虚血性心疾患         183/5脳卒中 191
 第六章 癌 200
      1癌の罹患状況 201/2発癌機序 201/3癌の遺伝素因 204
      4環境因子 205/5痛の診断 212/6瘤の予防と治療216/7頻度の高い痛 220
 第七章 免疫アレルギー疾患 236
      1複雑系としての免疫系 237/2アレルギーとその罹患状況、機序、治療 239
      3高頻度アレルギー疾患 244
 第八章 精神疾患 250
      1脳神経系は典型的な複雑系である 251/2精神疾患への罹患状況 252
      3遺伝と環境 253/4多頻度精神疾患 256

第Ⅲ部 病は減らせるか
 第九章 医療における病み情報とその修正 282
      1医療ゲーム 283/2ゲームの均衡状態としての諸問題 303/3薬と薬害 310
      4根拠不十分の医療 330/5人体実験 337/6医療情報の不透明性 344/7予防医       学の重要性 346
 第十章 科学による病み情報の修正 351
      1分子生物学と生命科学によるゲノム情報の修正 352/2統計的証拠による病み情報       の修正 365
      3個人の主観的合理的選択とその修正 375/4社会情報による拘束とその修正 379
      5地球環境の無限概念を修正する 385/6複雑系の理解と脳による病み情報の修正         389
 
おわりに 403
索引   414





2012年12月2日日曜日

『カネと暴力の系譜学』萱野稔人

萱野稔人氏の記事が朝日新聞の日曜版に載っていて関心を持った。
聞いた名前だなと思ったら、日曜の朝の時事問題に関するテレビ番組にも出演していた。
関心を持ったのは、風変わりな哲学者とという意外にも、国家の暴力をまともに扱っていることを知ったからだ。
この書のあとがきにも書いてあるとおり、『カネと暴力の系譜学』は『国家とはなにか』の続編であり、後者は「暴力の組織化」、前者は「労働の組織化」がキーワードと言う。
図書を検索して面白そうな方から読んだのだが、本来は『国家とはなにか』から読むべきだった。
それを読んでから紹介しようと思ったが、ちょうど衆議院選挙も間近に迫り、この本を読んでから選挙に行って欲しいと思った。

昨夜も「朝まで生テレビ」で色々討論がなされていたが、そこで気づかされたのは、原発はアメリカや英仏との関係に決定されるものであるということ。
何よりもアメリカが脱原発を容認しないことであった。
まさしくアメリカ国家による暴力的な支配により、日本は身動きできない。
同じ穴の狢として、イギリスに預けたプルトニウムを返すと言われて、為す術がない。
国民を欲望の道連れにし、史上最悪の事故を起こしても、日本国家は変われないのだろうか?
「美しい日本」を取り戻すというのは、米国に従属し原爆に継ぎ原発事故の起きた教訓を活かさないことなのか?
まさしく、今回の選挙は安保闘争に匹敵する重大な選択を迫られるものとなるだろうと思った。

戦争や大恐慌の危機を煽り、国民を不安にして危険な政策を強行することは、戦前のファシズムと変わりはない。
南方や大陸に活路を見出そうとして、日本人だけでも400万人以上の死者(http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/TR7.HTM参照)を出した太平洋戦争の教訓を思い出すべきである。
萱野氏はカネに集約させていったのだが、エネルギーも富や暴力と深く関わるものである。
<富への権力>により、民衆を欲望に駆り立て組織化できたカネ。
エネルギー革命により奴隷は賃金労働者になったのだが、IT革命によって労働組織化の問題の比重は下がった。
今後、個人がエネルギーを確保できるようになれば、国家の暴力への権利も抑制されるだろう。

この 『カネと暴力の系譜学』は国家とヤクザを上手く比較して、わかりやすく解説してくれたものである。
フーコーやドゥルーズ=ガタリ等の文献を分かりやすく説明してくれて、一般の人にも理解しやすくしてくれている。
私の研究にとっても、特に「非公式暴力の活用」は差別問題やエスニシティの問題とも関連して参考になった。

目次
カネと暴力の系譜学 [シリーズ・道徳の系譜]
萱野稔人

発行日
二〇〇六年一一月二〇日初版印刷
二〇〇六年一一月三〇日初版発行
発行者 若森繁男
河出書房新社

第一章 カネを吸いあける二つの回路     7
   カネを手に入れる四つの方法      9
   二つの〈権利〉 暴力とカネ 18

第二章 国家暴力について 29
   国家とヤクザ組織の同一性と差異     31
   事象はなぜ合法的な暴力を独占できるのか      50
   合法性と正当性 61
   暴力をめぐる価値判断と思考      77

第三章 法的暴力のオモテとウラ     85
   法と例外   87
   非公式暴力の活用     -    105
   規律・訓練と法の外   127

第四章 カネと暴力の系譜学     153
   所有の起源 155
   資本主義の成立と所有の変容     164
   国家と資本主義のあいだ         176
   労働の成果を吸いあげる運動の機能分化…………184


注 193
あとがき      ー      198





2012年11月25日日曜日

『大正デモクラシー』成田龍一

この道はいつか来た道 ああ そうだよお
とこの書を読むと口ずさみたくなる。どこかの新聞や週刊誌の見出しにも用いられたフレーズに思うが、敢えて使いたい。
混沌とした政局、隠然たる既得権力、未曾有の大災害に不況etc
大きく違うのはアメリカ帝国に制御されて、軍事力が独自の力を持っていないと言うことだろう。
ただ、当時既に英米の東アジア戦略の手中にあったと考えれば、日本は利用されている点では同じかも知れない。
今回も尖閣列島問題における領土問題で貿易等で得をしたのは、ドイツやアメリカなどであった。
日清・日露戦争で確定された領土という歴史に触れようともせず、『琉球王国』がどのような国であったか考慮することも忌避する。
政治家の言う歴史認識が妥当かどうか、岩波新書の『シリーズ日本近現代史』を繙いてみたらどうだろうか。
奇しくも外交の失敗と自民党の安倍総裁が街頭演説で民主党を批難したが、アメリカのアジア戦略に沿う形が将来の日本のためになるのか
ヨーロッパからアジアにシフトした世界経済での、日本のあり方はもう一度歴史認識を問い直すことから始める必要があると思う。
特にこの書は現代日本を考える上で参考になった。

大正デモクラシー
シリーズ日本近現代史④      岩波新書(新赤版)1045
    2007年4月20日 第1刷発行


著 者 成田龍一【なりたりゅういち】
発行者 山口昭男
発行所 株式会社岩波書店

  目 次



  はじめに - 帝国とデモクラシーのあいだ


第1章 民本主義と都市民衆…・            :1
   1 日比谷焼打ち事件と雑業層  2
   2 旦那衆の住民運動  11
   3 第一次護憲運動と大正政変  18
   4 民本主義の主張  27
   5 「新しい女性」 の登場  37


第2章 第一次世界大戦と社会の変容…・        ‥45
   1 韓国併合  46
   2 第一次世界大戦開戦  55
   3 都市社会と農村社会  62
   4 シベリア出兵の顛末  72


第3章 米騒動・政党政治・改造の運動…       81
   1 一九一八年夏の米騒動  82
   2 政党内閣の誕生  89
   3 「改造」の諸潮流 100
   4 無産運動と国粋運動  111
   5 反差別意識の胎動  119

第4章 植民地の光景………:            :129
   1 植民地へのまなざし  130
   2 三・一運動と五・四運動 139
   3 植民地統治論の射程 148
   4 ワシントン体制  156

第5章 モダニズムの社会空間…・         …:163
   1 関東大震災 164
   2 「主婦」と「職業婦人」  171
   3 「常民」とは誰か  178
   4 都市空間の文化経験  183
   5 普通選挙法と治安維持法 190


第6章 恐慌下の既成政党と無産勢力=:    …………・201
   1 歴史の裂け目 202
   2 既成政党と無産政党 209
   3 緊縮・統帥権干犯・恐慌 220
   4 恐慌下の社会運動 228

おわりに-「満州事変」前後…           =237

  あとがき 243

  参考文献
  略年表
  索 引



2012年10月12日金曜日

『世界の奴隷制の歴史』オルランド・パターソン

本文だけで700頁以上あるので読み終えるのに相当時間がかかったが、しかし苦労して読むだけの価値はあった。
訳者あとがきには

本書は刊行後、アメリカの雑誌、新開、学会誌などで数え切れないほどの書評の対象となったが、そのどれもが「驚異的」、「超人的」、「記念碑的」などという最大級の賛辞をもって本書を評価している。注だけでも一冊の本になるほどの分量で、研究者には大きな価値があると言われている(p725)

と紹介していることからも分かるように、奴隷研究には必読の書であった。
もっと前にこの書に出会っていれば、今までの奴隷や人身売買に関する文献の読み方も違っていたと思う。
訳者の解説のように日本における奴隷制はあまり取り上げられていないのだが、『〈身売り〉の日本史―人身売買から年季奉公へ』   下重 清 2012 吉川弘文館を、私は先に読んでいたので、 比較しながら読めた。
この書のお陰で、私も奄美のヤンチュ制度を世界史的な視点で考えることが出来るように思う。
どうしても日本の問題は奴隷という用語で分析することに抵抗を感じ、人身売買という言葉で婉曲的な表現に留めてきた。
また、中国、朝鮮、日本の奴婢という用語と奴隷という用語を区別するような傾向もあったが、パターソンは、最も典型的で長期にわたった奴隷制として、朝鮮をあげている。
そして、中国の宦官にしても、究極の奴隷制ということになる。

この奴隷制に対して一方で「奴隷以下」と表される強制労働の問題があるのだが、奴隷が近代とも切り離せないように、近代戦と「奴隷以下」とも切り離せない問題である。
そして、軍事奴隷というイスラムの例をまつまでもなく、軍事と奴隷は密接な関係にあることを、この書は明らかにしてくれている。
ということは戦時体制を維持している現代社会にとって非常に身近な問題なのであるが、特に日本では目を背けたままになってしまった。
「平和呆け」と一部の政治家や評論家などは日本国民を評するが、軍事と奴隷の問題を冷徹に示さずに「平和呆け」をなじることは国民を馬鹿にしている。
奴隷制の問題が一番深刻だったアメリカでこの書がきちっと評価されることに、その冷徹さを感じさせられる。
上に紹介した下重清氏は年季奉公は身売りと同じという強調しているが、アメリカの奴隷制と年季奉公はあまり区別がない。
今後は世界史的な観点で扱うべき問題であり、同じ奴隷制でも人種差別がないから違うという論理は成り立たないことがこの書を読めば分かる。
そして、奴隷制そのものに興味がない人も、現代の被雇用者の立場と比較してみれば、奴隷制度は身近に感じるだろう。

目次
オルランド・パターソン著
           奥田暁子訳
           世界人権問題叢書41
       世界の奴隷制の歴史
2001年6月20日第1刷発行
発行者 石井昭男
発行所株式会社 明石書店
はじめに 5

 序章 奴隷制の構成要素                25
第Ⅰ部 奴隷制の内部関係
 第1章 権力のイディオム                     55
      権力のイディオムと財産の概念 56
      財産と奴隷制 61
      権力のイディオムと奴隷制のイディオム 71
      奴隷制の矛盾 80

 第2章 権威・疎外・社会的な死                 95
      象徴的支配としての権威 96
      社会的な死についての二つの概念 100
      周縁の統合 112
      奴隷化の儀式としるし 123
      擬制の親族関係 142
      宗教と象徴性 147

 第3章 名誉と蔑視                     183
      名誉の本質 186
      部族社会における名誉と奴隷制 189
      発展した前近代社会の人びとに見られる名誉と奴隷制 198
      合衆国南部における名誉と奴隷制 212
      ヘーゲルと奴隷制の弁証法 218

第Ⅱ部 制度的プロセスとしての奴隷制度

第4章 「自由」民の奴隷化  ・  ・   -   241
     戦争捕虜 242
     誘拐 257
     貢納と税金 268
     債務 271
     犯罪に対する処罰 274
     子供の遺棄と売却 279
     自ら奴隷になること 281

第5章 出生奴隷     -          ・・305
     アシャンティ型 310
     ソマリ型 313
     トゥアレグ型 316
     ローマ型 317
     中国型 321
     近東型 325
     シェルプロ型 329

第8章 奴隷の収得                   33,
     対外貿易 339
     国内貿易 362
     花嫁代償およびダウリー 365
     貨幣としての奴隷 367

第7章 奴隷の境遇                   385
     奴隷の特有財産 400
     結婚その他のカップル 408
     奴隷の殺害 414
     奴隷に対する第三者の犯罪 419
     奴隷の犯罪 423
     全体としての奴隷の取り扱い 426
     能動的行為者としての奴隷 429
     結論 438

第8章 解放- その意味と様式    ・       465
     奴隷状態からの解放の意味 465
     身請けの儀式 474
     解放の形態 481

第9章 解放奴隷の身分               525
     解放奴隷と元の主人 525
     解放奴隷と出生自由民 536

第10章 解放のパターン       ・ ・    567
     解放の発生 568
     解放率と解放のパターン 580
     重要視されない人種 590
     インターカルチェラル・パターン 592
     支配的要因 602
     結論 615

第Ⅲ部 奴隷制の弁証法
第11章 究極の奴隷       ・          635
             
     カエサルの家人たち 636
     イスラムのグラーム 650。
     ビザンティン帝国と中国における宦官 662
     支配の原動力 690

第12章 人間の寄生【パラサイト】としての奴隷制             703

 訳者あとがき 725


 付録 A 782
    B 776
    C  773
 索引 814



2012年8月30日木曜日

『ヨーロッパ的普遍主義』イマニュエル・ウオーラーステイン

ウオーラーステインに関しては以前から何度も引用された文献を読んでいたので、知ってはいたが、本来『近代世界システム』の基礎文献から読むべきところを、題名につられて先に読んでしまった。
副題の「近代世界システムにおける構造的暴力と権力の修辞学」という意味合いは、著者の弟子であり訳者である山下範久氏が日本の読者のために付け加えたようだ。
「暴力」という言葉は、本文ではあまり見いだせないが、山下氏は「訳者あとがき」で多く使っている。
これは我々、ヨーロッパの外にあって、その普遍主義に付き合うことによって生きざるを得ない、立場を表現しているように思う。

本文でも「軍事的」という言葉は見いだせるが、軍事そのものがもつシステムへの影響力の説明はない。
社会学は例外を除いて、それを避けてきたように思う。
経済や政治の暴力と一体化している、暴力そのものの軍事の本質を説明しないことにジレンマを感じてきたがこの書も同じであった。
しかし、科学や人文という学問そのものの暴力性も暴いていることには非常に参考になった。

エリザベス・アボットの『砂糖の歴史』 で生々しい奴隷という暴力の現場の書を読んだ後で、抽象的な暴力のレトリックを学ぶというのももどかしい。
戦争や災害によって脆くも崩れていく、都市文明を身近に感じながら、何とか99%の弱者の中でも何とか生き延びようという我々庶民の生き方に、別の生き方があるのか?
今日もシャープという企業の断末魔をニュースで見ながら、動乱期に生きる現代人の哀れさを思い知る。
1%の強者はシステムの暴力とうまく手を繋ぎながら、正体を見せない。
それを考えさせられる書である。
なお、「訳者のあとがき」も非常に解説として分かりやすい。

目次
ヨーロッパ的普遍主義-近代世界システムにおける構造的暴力と権力の修辞学

著者 イマニュエル・ウオーラーステイン

訳者 山下範久
2008年
発行者 石井昭男
発行所 株式会社明石書店

                   目 次


                 謝辞 9


             はじめに 11
   今日における普遍主義の政治学 

 第Ⅰ章 干渉の権利はだれのものか 19
    -野蛮に対する普遍的価値 

 第Ⅱ章 ひとは非東洋学者になりうるか 69
      -本質主義的個別主義 

 第Ⅲ章 真理はいかにして知られるか 105
      ~科学的普遍主義 

 第Ⅳ章 観念のパワー、パワーの観念 139
    - 与えることと受け取ること? 

          文献一覧 164
           訳者あとがき 168
           索引 189
Acknowledgments

Introduction:
The Politics of Universalism Today

1/Whose Right to lntervene?
Universal Values Against Barbarism

2/Can One Be a Non-Orientalist?
Essentialist Particularism

3/How Do We Know the Truth?
Scientific Universalism

4/The Power of Ideas,the Ideas of Power:
To Give and to Receive?

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2012年8月23日木曜日

『砂糖の歴史』 エリザベス・アボット

この書籍も、今までの自分の研究を根本的に見なおさねばならないことを感じさせられました。
私は「奄美の歴史」は日本の歴史において非常に「不都合な歴史」と常々思ってきました。
あの歯切れの良い小熊英二氏でさえ「日本人の境界」で深いりすることをためらう地域ですから、よほど覚悟を持って歴史認識を考えないといけないと思っています。
やはり、一番の問題は村落によっては人口比3割を超えたという、ヤンチュの問題です。
奴隷、人身売買、年季奉公というような分析用語で簡単に括るわけには行きません。
色々と読みあさりましたが、今回読んだこの書籍はタイトルが「砂糖の歴史」と言いながら、実は近代奴隷制度の歴史であり、生活史でもありました。
『近世奄美の支配と社会』 (松下志朗 1983  第一書房)と一緒に読んで頂ければ、他人事ではないことに気付かされる筈です。
この書では中国とインドがプランテーション化を免れた地域として扱い、年季奉公者の部分を大きく取り上げていますが、奄美や台湾を考える時にはそれでは済まされないと思います。
オランダを媒介として仕組まれたシステムとして(専売制と日本の歴史家は呼ぶでしょうが)、近代奴隷制度による植民地としての視角を持つべき事を確証させてくれた書籍です。

目次
砂糖の歴史【さとう】【れきし】
2011年5月20日 初版印刷
2011年5月30日 初版発行
著 者  エリザベス・アボット
訳 者  樋口幸子
装幌者  岩瀬聡
発行者  小野寺優
発行所  株式会社河出書房新社

 序 章 7


第1部 西洋を征服した東洋の美味 17

 第1章 「砂糖」王の台頭 18

 第2章 砂糖の大衆化 56


第2部 黒い砂糖 93

 第3章 アフリカ化されたサトウキビ畑 94

 第4章 白人が創り出した世界 150

 第5章 砂糖が世界を動かす 181


第2部 抵抗と奴隷制廃止 227

 第6章 人種差別、抵抗、反乱、そして革命 228

 第7章 血まみれの砂糖 - 奴隷貿易廃止運動 266

 第8章 怪物退治―奴隷制と年季奉公制 297

 第9章 キューバとルイジアナ―北アメリカ向けの砂糖 326


 第4部 甘くなる世界 375

  第10章 砂糖農園の出稼ぎ移民たち 376

  第11章 セントルイスへ来て、見て、食べて! 421

  第12章 砂糖の遺産と将来 458



  謝 辞 497

  訳者あとがき 500

  参考文献 513