2012年10月12日金曜日

『世界の奴隷制の歴史』オルランド・パターソン

本文だけで700頁以上あるので読み終えるのに相当時間がかかったが、しかし苦労して読むだけの価値はあった。
訳者あとがきには

本書は刊行後、アメリカの雑誌、新開、学会誌などで数え切れないほどの書評の対象となったが、そのどれもが「驚異的」、「超人的」、「記念碑的」などという最大級の賛辞をもって本書を評価している。注だけでも一冊の本になるほどの分量で、研究者には大きな価値があると言われている(p725)

と紹介していることからも分かるように、奴隷研究には必読の書であった。
もっと前にこの書に出会っていれば、今までの奴隷や人身売買に関する文献の読み方も違っていたと思う。
訳者の解説のように日本における奴隷制はあまり取り上げられていないのだが、『〈身売り〉の日本史―人身売買から年季奉公へ』   下重 清 2012 吉川弘文館を、私は先に読んでいたので、 比較しながら読めた。
この書のお陰で、私も奄美のヤンチュ制度を世界史的な視点で考えることが出来るように思う。
どうしても日本の問題は奴隷という用語で分析することに抵抗を感じ、人身売買という言葉で婉曲的な表現に留めてきた。
また、中国、朝鮮、日本の奴婢という用語と奴隷という用語を区別するような傾向もあったが、パターソンは、最も典型的で長期にわたった奴隷制として、朝鮮をあげている。
そして、中国の宦官にしても、究極の奴隷制ということになる。

この奴隷制に対して一方で「奴隷以下」と表される強制労働の問題があるのだが、奴隷が近代とも切り離せないように、近代戦と「奴隷以下」とも切り離せない問題である。
そして、軍事奴隷というイスラムの例をまつまでもなく、軍事と奴隷は密接な関係にあることを、この書は明らかにしてくれている。
ということは戦時体制を維持している現代社会にとって非常に身近な問題なのであるが、特に日本では目を背けたままになってしまった。
「平和呆け」と一部の政治家や評論家などは日本国民を評するが、軍事と奴隷の問題を冷徹に示さずに「平和呆け」をなじることは国民を馬鹿にしている。
奴隷制の問題が一番深刻だったアメリカでこの書がきちっと評価されることに、その冷徹さを感じさせられる。
上に紹介した下重清氏は年季奉公は身売りと同じという強調しているが、アメリカの奴隷制と年季奉公はあまり区別がない。
今後は世界史的な観点で扱うべき問題であり、同じ奴隷制でも人種差別がないから違うという論理は成り立たないことがこの書を読めば分かる。
そして、奴隷制そのものに興味がない人も、現代の被雇用者の立場と比較してみれば、奴隷制度は身近に感じるだろう。

目次
オルランド・パターソン著
           奥田暁子訳
           世界人権問題叢書41
       世界の奴隷制の歴史
2001年6月20日第1刷発行
発行者 石井昭男
発行所株式会社 明石書店
はじめに 5

 序章 奴隷制の構成要素                25
第Ⅰ部 奴隷制の内部関係
 第1章 権力のイディオム                     55
      権力のイディオムと財産の概念 56
      財産と奴隷制 61
      権力のイディオムと奴隷制のイディオム 71
      奴隷制の矛盾 80

 第2章 権威・疎外・社会的な死                 95
      象徴的支配としての権威 96
      社会的な死についての二つの概念 100
      周縁の統合 112
      奴隷化の儀式としるし 123
      擬制の親族関係 142
      宗教と象徴性 147

 第3章 名誉と蔑視                     183
      名誉の本質 186
      部族社会における名誉と奴隷制 189
      発展した前近代社会の人びとに見られる名誉と奴隷制 198
      合衆国南部における名誉と奴隷制 212
      ヘーゲルと奴隷制の弁証法 218

第Ⅱ部 制度的プロセスとしての奴隷制度

第4章 「自由」民の奴隷化  ・  ・   -   241
     戦争捕虜 242
     誘拐 257
     貢納と税金 268
     債務 271
     犯罪に対する処罰 274
     子供の遺棄と売却 279
     自ら奴隷になること 281

第5章 出生奴隷     -          ・・305
     アシャンティ型 310
     ソマリ型 313
     トゥアレグ型 316
     ローマ型 317
     中国型 321
     近東型 325
     シェルプロ型 329

第8章 奴隷の収得                   33,
     対外貿易 339
     国内貿易 362
     花嫁代償およびダウリー 365
     貨幣としての奴隷 367

第7章 奴隷の境遇                   385
     奴隷の特有財産 400
     結婚その他のカップル 408
     奴隷の殺害 414
     奴隷に対する第三者の犯罪 419
     奴隷の犯罪 423
     全体としての奴隷の取り扱い 426
     能動的行為者としての奴隷 429
     結論 438

第8章 解放- その意味と様式    ・       465
     奴隷状態からの解放の意味 465
     身請けの儀式 474
     解放の形態 481

第9章 解放奴隷の身分               525
     解放奴隷と元の主人 525
     解放奴隷と出生自由民 536

第10章 解放のパターン       ・ ・    567
     解放の発生 568
     解放率と解放のパターン 580
     重要視されない人種 590
     インターカルチェラル・パターン 592
     支配的要因 602
     結論 615

第Ⅲ部 奴隷制の弁証法
第11章 究極の奴隷       ・          635
             
     カエサルの家人たち 636
     イスラムのグラーム 650。
     ビザンティン帝国と中国における宦官 662
     支配の原動力 690

第12章 人間の寄生【パラサイト】としての奴隷制             703

 訳者あとがき 725


 付録 A 782
    B 776
    C  773
 索引 814



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