2012年12月2日日曜日

『カネと暴力の系譜学』萱野稔人

萱野稔人氏の記事が朝日新聞の日曜版に載っていて関心を持った。
聞いた名前だなと思ったら、日曜の朝の時事問題に関するテレビ番組にも出演していた。
関心を持ったのは、風変わりな哲学者とという意外にも、国家の暴力をまともに扱っていることを知ったからだ。
この書のあとがきにも書いてあるとおり、『カネと暴力の系譜学』は『国家とはなにか』の続編であり、後者は「暴力の組織化」、前者は「労働の組織化」がキーワードと言う。
図書を検索して面白そうな方から読んだのだが、本来は『国家とはなにか』から読むべきだった。
それを読んでから紹介しようと思ったが、ちょうど衆議院選挙も間近に迫り、この本を読んでから選挙に行って欲しいと思った。

昨夜も「朝まで生テレビ」で色々討論がなされていたが、そこで気づかされたのは、原発はアメリカや英仏との関係に決定されるものであるということ。
何よりもアメリカが脱原発を容認しないことであった。
まさしくアメリカ国家による暴力的な支配により、日本は身動きできない。
同じ穴の狢として、イギリスに預けたプルトニウムを返すと言われて、為す術がない。
国民を欲望の道連れにし、史上最悪の事故を起こしても、日本国家は変われないのだろうか?
「美しい日本」を取り戻すというのは、米国に従属し原爆に継ぎ原発事故の起きた教訓を活かさないことなのか?
まさしく、今回の選挙は安保闘争に匹敵する重大な選択を迫られるものとなるだろうと思った。

戦争や大恐慌の危機を煽り、国民を不安にして危険な政策を強行することは、戦前のファシズムと変わりはない。
南方や大陸に活路を見出そうとして、日本人だけでも400万人以上の死者(http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/TR7.HTM参照)を出した太平洋戦争の教訓を思い出すべきである。
萱野氏はカネに集約させていったのだが、エネルギーも富や暴力と深く関わるものである。
<富への権力>により、民衆を欲望に駆り立て組織化できたカネ。
エネルギー革命により奴隷は賃金労働者になったのだが、IT革命によって労働組織化の問題の比重は下がった。
今後、個人がエネルギーを確保できるようになれば、国家の暴力への権利も抑制されるだろう。

この 『カネと暴力の系譜学』は国家とヤクザを上手く比較して、わかりやすく解説してくれたものである。
フーコーやドゥルーズ=ガタリ等の文献を分かりやすく説明してくれて、一般の人にも理解しやすくしてくれている。
私の研究にとっても、特に「非公式暴力の活用」は差別問題やエスニシティの問題とも関連して参考になった。

目次
カネと暴力の系譜学 [シリーズ・道徳の系譜]
萱野稔人

発行日
二〇〇六年一一月二〇日初版印刷
二〇〇六年一一月三〇日初版発行
発行者 若森繁男
河出書房新社

第一章 カネを吸いあける二つの回路     7
   カネを手に入れる四つの方法      9
   二つの〈権利〉 暴力とカネ 18

第二章 国家暴力について 29
   国家とヤクザ組織の同一性と差異     31
   事象はなぜ合法的な暴力を独占できるのか      50
   合法性と正当性 61
   暴力をめぐる価値判断と思考      77

第三章 法的暴力のオモテとウラ     85
   法と例外   87
   非公式暴力の活用     -    105
   規律・訓練と法の外   127

第四章 カネと暴力の系譜学     153
   所有の起源 155
   資本主義の成立と所有の変容     164
   国家と資本主義のあいだ         176
   労働の成果を吸いあげる運動の機能分化…………184


注 193
あとがき      ー      198