2012年3月31日土曜日

『日本の時代史18 琉球・沖縄史の世界』

日本の時代史18 琉球・沖縄史の世界
二〇〇三年(平成十五)十一月二十日 第一刷発行
編 者 豊見山和行【とみやまかずゆき】
発行者 林 英男
発行所 吉川弘文館

目次

琉球・沖縄史の世界  豊見山和行 7

一 新たな琉球・沖縄史像の模索 8
二 古琉球史の論点 18
1 内と外からの琉球化 18
2 古琉球の統治形態とヒトの流動性 36
三 近世琉球の対外関係 48
1 近世の琉球王国をめぐる諸問題 48
2 対幕府関係と対中国関係に見る琉球国の特徴 57
四 近世琉球社会の特徴と諸論点 67
1 国内史の推移と近世社会の諸特徴 67
2 純化された近世琉球入 73
3 「上からの農業化」 の問題 76
むすびにかえて 琉球・沖縄史における「民族統一」とは 81

Ⅰ 琉球王国の形成と東アジア
安里 進 84
はじめに 84
  一  四つの論点 84
二 二つの琉球と東アジア 89
三 交易社会の発達 94
四 グスク文化の形成と東アジア交易圏 100
五 大型グスクの出現と初期中山王国 105
六 初期中山王国の成立 109
結  び 113

Ⅱ 琉球貿易の構造と流通ネットワーク……………・真栄平房昭 116
  一  銀でつながれた世界 116
二 海賊の時代 125
三 貿易経営をめぐる諸問題 128
四 貿易経営と琉球館 136
五 清代の「洋銀」流通 141
六 国境を超えたモノの流通構造 薬種・昆布・鰹節 152

Ⅲ 自立への模索…………………………・………………………田名真之 167
一 王府の官僚システム 168
二 琉球的身分制の成立 177
三 史書の編集 184
四 琉球文化の成熟 290

Ⅳ 伝統社会のなかの女性……………・………………………………………:196
一  祭祀(神歌・儀礼・のろ制度)と文学のなかの女性……池宮正冶 196
二 貢納される布と女性たち…………………………………・小野まき子 214

Ⅴ 王国の消滅と沖縄の近代………………………………・赤嶺 守 232
一 明治維新と琉球王国 232
二 強行併合と旧藩士族の抵抗 241
三 明治政府の沖縄統治政策 253
四 東アジア社会の変容と近代沖縄社会の胎動 259

Ⅵ 世界市場に夢想される帝国 「ソテツ地獄」の痕跡 冨山一郎 267
はじめに 「流民としての歴史」 267
  一  生き延びるということ 「ソテツ地獄」 269
二 破局の予兆 自由 272
三 帝国の夢 世界市場 278
四 生き延びる者たち 286


あとがき 289
参考文献 291
関連年表 12
図版目録 9

索   引 2

若干のコメント
少し古い文献で、2004年に山川出版社から『沖縄県の歴史 県史47』も出版されているが、それと合わせて読むと分かりやすい。文化人類学を専門とする者からは、もう少しノロについての詳しい記述が欲しかった。小野まき子の八重山・宮古などの御用布を織る女性に関する

・・・女性たちの未婚化・晩婚化、さらには出産をしない、また子供が産まれても間引くという現象の多いことが書かれる。王府は、それを阻止しようと、結婚の奨励や間引の禁止を出すのだが、あまり効果をあげていない。

という記述は、「間引き」を「堕胎」とか「間引きの禁止」を「出産奨励」と置き換えれば、現代の日本社会に共通するものを感じてしまうのは私だけだろうか?薩摩藩による植民地支配だけがクローズアップされがちだが、琉球王国による半ば植民地支配にも目を転じるべきことが分かった。

真栄平房昭の「琉球貿易の構造と流通ネットワーク」は、今まで島嶼部の孤立していたイメージとだいぶ違うことがよく分かった。ただ、日本本土での庶民の流通ネットワークが報告されている点から考えると、商人以外の庶民の様子の記述も欲しかった。

田名真之の 「自立への模索」は、琉球的身分制の中で人身売買された「インジャ」のことや、糸満売り(イチマンウイ) のことが、触れられていなくて、中世の倭寇の交易に重要な奴隷や、役人に付けられた隷属下人などにももっと触れて欲しかった。奄美大島では江戸後期には村人の三割近くがヤンチュと言われる債務奴隷に陥っており、沖縄に売られた奄美の人に関しても、戦前まで行われていたことが分かっている。 真栄平房昭も「砂糖をめぐる世界史と地域史」『日本の対外関係6 近世的世界の成熟』吉川弘文館(2010)で植民地と奴隷問題を琉球にも当てはめて考えようとしていることと対照的である。

それにしても、冨山一郎の文章はよく分からない。途中で読むのを止めてしまった。冨山一郎 1990 『近代日本社会と沖縄人』 日本経済評論社は大変すばらしい研究成果が発表されたと思っていたが、このところの冨山の文章は抽象的な用語を用いて私には理解不能である。