2013年2月8日金曜日

  『国家とはなにか』 萱野稔人

私は昔から哲学書は苦手であった。この本も読み切るのに時間がかかった。
私の大学院の恩師、石川栄吉先生は哲学に対して疑義を唱える人だった。
私自身はそうとは思えず、研究室の先輩の哲学的レトリックには魅力を感じつつ、空虚感も感じた。
今回この書を読んでみて、哲学は現実の社会現象を抽象的な言葉でフィクション化回避しているように思えた。
しかし、文学がフィクションと名乗って、現実を暴くように、抽象化して現実を暴くのが哲学かなとも思った。
ただ、彼の最近の活動をネットで調べると、かなり現実の社会問題に取り組んでいることが分かる。
今後彼の主張や動向は、学術的な哲学を越えているようにも思っている。

私自身は、社会学が避けてきた軍事の問題をどう捉えるかずっと悩んでいた。
「暴力」という言葉は、生々しいリアリティーを回避するのに用いやすい言葉だとは思った。
国家の根幹に関わるものとしての「暴力」を通して、「想像」された国家の裏面を暴いた。
私はもう一つ「欲望」という言葉も用いたいが、これもまだ考えがまとまっていない。
とにかく、歴史や現代を考える上でも、割り切って考えるのに非常に参考となった。
平和主義を唱える日本人にとって、「暴力」を表出させられてしまうと不安になるのだが、リアリティーのない状態で右傾化する事の方が恐怖である。

私の最大の関心は、国家に組する以外の生活であり、適当に国家と付き合いながら、どう自分たちの生活と仲間を守っていくかである。
欲ボケして国家奴隷の如き生活を余儀なくされている我々の立ち位置から目を背けないことが、今一番重要だと思っている。
そういう意味でこの書は参考になるが、私自身完全に理解できているとは言い切れない。
おそらく、自分の都合の良いように解釈しても良いのかも知れない。

目次

国家とはなにか
初版第1刷発行
2005年6月15日
著 者 萱野稔人
発行者 勝股光政
発行所 以 文 社

イントロダクション  3


第一章 国家の概念規定 9

  1 「物理的暴力行使の独占」
        ― ウェーバーによる国家の定義 9
  2 暴力の正当性と合法性 16
  3 暴力の自己根拠化とヘゲモニー 26
  4 「暴力の歴史の哲学」  37

第二章 暴力の組織化 43

  1 秩序と支配の保証 43
  2 服従の生産―権力と暴力 48
  3 暴力と権力の規範的区別と機能的区別 56
  4 権力による暴力の組織化と加工 69
  5 手段をこえる暴力? 81

第三章 富の我有化と暴力 93

  1 富の我有化と暴力の社会的機能 93
  2 税の徴収の根拠 99
  3 設立による国家と獲得による国家 106
  4 所有・治安・安全 118
  5 国家形態の規定要因と「国家なき社会」 128

第四章 方法的考察 137

  1 国民国家批判の陥穿 137
  2 国家・イデオロギー・主体
     ―国家=フィクション論の誤謬(1) 144
  3 国家と言説
     ―国家=フィクション論の誤謬(2) 53

第五章 主権の成立 159
  1 暴力をめぐる歴史的問題としての主権 159
  2 近代以前の国家形態 161
  3 暴力の独占と政治的なものの自律化 168
  4 領土と国境 176
  5 「大地のノモス」と世界の地図化 182
  6 国境と頷土による国家の脱人格化 186

第六章 国民国家の形成とナショナリズム 191
  1 国民国家とナショナリズムの概念的区別 191
  2 国家の暴力の「民主化」 197
  3 神学的・経済的なものと国家のヘゲモニー 204
  4 権力関係の脱人格化 213
  5 主権的権力と生-権力の結びつき 224
  6 ナショナル・アイデンティティの構成 233

第七章 国家と資本主義 243
  1 捕獲装置と資本主義 243
  2 全体主義的縮減-国家の現在 256
  3 脱領土化する国家 265
  4 公理をめぐる闘争 270



あとがき 281



2013年1月24日木曜日

『病み情報社会』 金子義保

自分の健康問題を考えるに当たって、医療・健康に関する書籍にあたってみた。
自分が入院したり、退院後の治療にあたっているときは、治療方法そのものに関心があった。
病状が回復し、安定してくると病気そのものが生じる原因を考えようと思うようになった。
医療人類学や医療社会学の書籍にあたってみて、色々ためになったが、医学的な立場での書籍は、ある意味目から鱗であった。

著者は

一九四四年、埼玉県生まれ。一九七〇年、東京大学医学部卒、医学博士。アルバート・アインシュタイン医科大学研究員、東京大学医学部講師、東京大学医学部付属病院総合内科外来医長。内分泌代謝病、肝臓病、肝癌の遺伝子治療などを研究

という紹介がなされている。
 この本は当然専門的な医学の知識もふんだんにあるが、高校の「現代社会」の教科書にも通じるような部分が多い。
当然教科書よりもより高度で難解ではあるが、文系の思考が理系分野に立ち入れずに戸惑っている部分をうまく解説してくれている。

医学者が自ら誤った医療の情報をも暴露もしている。
そして、医療のみならず「病み情報」が氾濫する文明そのものの批判を、少々粗っぽいやり方に見えるが行っている。
ただ、社会システムで成功を収めた医学者は、社会システムの批判を行うと自己撞着を当然起こしてしまう。
かと言って、社会的弱者は情報を発信することはかなり難しい。
また、この本は2007年に出版されており、EUなどの国民国家を越えた共同体への期待が述べられている。
今はその破綻を目の当たりにしているので、どこに救いを求めて良いのかは、読者が考えねばならない。
とにかく、マスコミが宣伝したり、学校で常識のように習うことを根本から疑うこと。
そして、信頼が第一であるべき病院での治療をも、警戒しながら頼るしかないことを痛烈に教えてくれる。
特に、薬害に関してはしっかりと読んでおくべきだと思った。

医療人類学の書籍においても、近代医療に関しての批判がなされているが、現代医療のおぞましい部分は描けていなかった。
この書のように731部隊が戦後の医療にどれだけ関わったかということ一つをとっても衝撃となる。
ただ、そういうおぞましい虚塔の何倍もの地道は医療があったことも想像できるのだが、この書の目的とは違うのでこれは読者が別の機会で知るしかない。

目次

病み情報社会【やみじょうほうしやかい】

二〇〇七年十二月五日 初版第一刷発行

著者   金子義保
発行   株式会社 新書館

      詳細目次 4

       はじめに 10
第Ⅰ部 病の蔓延
 第一章 複雑系の情報と「病み情報」 16
        1病と医の歴史 17/2複雑系の情報 26/3病をもたらす遺伝情報 34
        4病をもたらす自然環境の情報 36/5病をもたらす社会情報 41
 第二章 病んだ社会情報がもたらす社原病 46
        1病み情報に基づく自己傷害と他者傷害 47/2貧しさ病と豊かさ病 49
        3有害物質による環境と心身の破壊.61/4職業と関連する疾患 81
        5狂気が生み出す究極の他者傷害 86
 第三章 ありふれた病・多因子病 107
      1心身の病を診る 108/2ゲノムと環境の相互作用がもたらす多因子病 110
      3多因子病と活性酸素 118

第Ⅱ部 文明病各論
 第四章 代謝系の病 124
      1代謝系の特徴 125/2代謝症候群 127/3肥満 132/4糖尿病 141/5高脂血症       153
 第五章 血管系の病 168
      1心血管系の病の特徴 169/2高血圧 170/3動脈硬化症 179/4虚血性心疾患         183/5脳卒中 191
 第六章 癌 200
      1癌の罹患状況 201/2発癌機序 201/3癌の遺伝素因 204
      4環境因子 205/5痛の診断 212/6瘤の予防と治療216/7頻度の高い痛 220
 第七章 免疫アレルギー疾患 236
      1複雑系としての免疫系 237/2アレルギーとその罹患状況、機序、治療 239
      3高頻度アレルギー疾患 244
 第八章 精神疾患 250
      1脳神経系は典型的な複雑系である 251/2精神疾患への罹患状況 252
      3遺伝と環境 253/4多頻度精神疾患 256

第Ⅲ部 病は減らせるか
 第九章 医療における病み情報とその修正 282
      1医療ゲーム 283/2ゲームの均衡状態としての諸問題 303/3薬と薬害 310
      4根拠不十分の医療 330/5人体実験 337/6医療情報の不透明性 344/7予防医       学の重要性 346
 第十章 科学による病み情報の修正 351
      1分子生物学と生命科学によるゲノム情報の修正 352/2統計的証拠による病み情報       の修正 365
      3個人の主観的合理的選択とその修正 375/4社会情報による拘束とその修正 379
      5地球環境の無限概念を修正する 385/6複雑系の理解と脳による病み情報の修正         389
 
おわりに 403
索引   414